響くのは ただの陽炎
あの部屋の音が未だに
心の中で騷めく
消えた筈の燈りが
夜の隙間を指すやうに
響く足音 誰のもの?
昨日と今日の境で
消えたのは何?
殘つたのは何?
夢のやうな陽炎が
密やかに指を差す
光と影の向かふへ
知らない街の薄い影
傳へ切れない名前の記憶
ただ過ぎ去る時の中
誰かが未だ そこにゐる
響く音の向かふ側
誰もゐない世界だけ
消えたのは誰?
殘つたのは誰?
未來さへもすれ違ふ
あの部屋の記憶だけ
陽炎の中で彷徨ふ
あの人が
座つた椅子
消えた時計の針
消える前の光
全てがただそこに在る
殘るのは何?
傳へられるのは何?
ただの陽炎の中に
時の隙間が潜んでゐる
誰かをずつと探してゐる
未だゐるやうな
ゐないやうな
その部屋で