ひと筋の聲が
深い溝をなぞる
何も言はず傳ふ指
光と影のあひだ
唇の側で消えた
觸れさうな言葉
開いた儘の掌
重なる影が揺れて
胸の奧で響く
言へないものだけ
握りしめて
風に溶けて行く
罅割れた鏡の中
映る顏に嘘は無い
繫いだ視線はただ
その先で途切れた
積もつた音の氣配
零れる前にそつと
胸の奧で響く
觸れたいものだけ
抱へながら
明日を待ちわびる
影が延びる夕暮れ
見えない言葉が
聲に出せず
解けた儘
胸の奧で響く
傳へない儘でも
殘るものが
此處に在るから
ひと筋の聲が
靜かに溶けて行く