金網をくぐって
身を屈めては斜めに駆ける
まだ日の出にも誰にも
追いかけられていない
足は靴紐まで泥水に浸かり
殆ど前に出せないほど
父さんと母さんは金網の向こうで
細々と毎日を諦めている
でも
息を殺して生きているのと
心を殺して生きているのは
同じなもんか
国境には色んな種類があって
ここは忘れられた国境
警報も鳴らなければ
パレードも通らない
監視員は皆買収されて
薬で気を失った憲法が
仰向けになって笑ってやがる
僕が越えてきたのはそういう種類のものだった
誰か僕のドアに
10億円の絵を描いておいてくれないか
一夜にして人生を変えてくれるのが
あんた達アーティストの仕事じゃないのか
誰か僕のお嫁さんに
愛しているって伝えておいてくれないか
僕はまだ憎しみだけを知っているが
いつか誰かを幸せにできたらって思うよ
砂漠だったら
まだ幾らか良かったのに
渇きと飢えに他の何をも
忘れてしまえるだろう
でも
ここの大地は痩せて硬く涙目で
まるで老婆の肌のよう
国境線沿いの植物は
なんという名前か分からない
まるで向こう側に置き去りにした
僕の家族のようなんだ
僕が越えてきたのはそういう種類のものだった
誰か僕のドアに
10億円の絵を描いておいてくれないか
一夜にして人生を変えてくれるのが
あんた達アーティストの仕事じゃないのか
誰か僕のお嫁さんに
愛しているって伝えておいてくれないか
僕はまだ憎しみだけを知っているが
いつか誰かを幸せにできたらって思うよ